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ビデオ設定にこめたこと  

倉嶋正彦/ビジュアル・アーティスト

 

         
   

このときの展示風景はこちら

 


   
 
 

 初めに、カオスモスマシンに映像作家として係わる機会を与えくれた冨岡氏に感謝申し上げたい。これまで幾度か参加しながら、私なりにカオスモスマシンの現象と向きあい、様々な展開を試みてきた。(詳しくは、氏のサイトを参照願いたい。)

 私にとって、最も印象的なカオスモスマシンがClinamen Machine2である。今回の展示の話を頂いたとき「ひらめき」と「具体的状況」が同時に浮かんだ。冨岡氏が映像設定を当初から盛り込んでいるという状況がそうさせたと言えるが、なにより「好きな」マシンに映像を仕掛けられるのが嬉しかったからだろう。

 展示する場所がASK?である事も、そのイメージの具現化を確信させた。表現するすべては空間から始まる。特に映像をインスタレーションする場合、その空間に敏感に反応し、そこから何を感じ取ったか。そういう事を忘れないよう心掛けている。設定する側が、カオスモスマシン、現象、奏者、ライブ映像、鑑賞者、その空間。それぞれが複合し、共存する世界感をどのようにイメージしたかが問われる所だ。

 展示された状況を具体的に見てみよう。Clinamen Machine2の動きは至ってシンプルである。レバーを左右にスライドさせ、流体におかれた金属のボールを移動させる。それにより流体が拡散された様を鑑賞する。と、簡単にいえばそのような情景である。しかしながら、そう簡単でないのがカオスモスマシンなのだ。

 まず左右のストローク幅である。短くもなく長くもない、眼球の視覚域ギリギリの設定が、単純なストロークを心理的に可変している。そしてボールの動きはダイナミックに流体を拡散(実に見ていて飽きない)する、が一方で、拡散の終息はゆったりと静かである。さらに、磁場の効いた装置は、絶えず我々の予測範囲をこえた現象を見せてくれるのだ。

 そこで、ストロークを意識した結果、3台のビデオカメラで、マシン本体を網羅する事にした。それぞれの映像を3台のプロジェクターで横に並べた疑似シームレス投影を採用する。200インチ3面映像が、ASK?の全壁面の半分を覆う。コーナーにまたがってラウンドするパノラマ感が心地いい。拡大投影された世界は、実際の現象をさらにリアルな驚きとして、鑑賞者(奏者)にフィードバックする。

 重要なのは、鑑賞者(奏者)が映像の起因をつくっているという事である。ここがカオスモスならではだ。イメージの放出ではなく、還元する体感としての映像は、こういった状況だから生まれるし、特徴と言っていいだろう。

 設置を終え、テストする。驚いた事が起きた。 それは、拡散された流体が静かに沈澱する様である。それは、まるで映像スクリーンに重力(上から下へ)があるかのように見えたのだ。壁面から床に流体が落ちていくかのような錯覚。これを錯視ととらえるなら、まさにDMにあるようなコメントを連想するのは私だけだろうか。

 最後に、この作品は、奏者としてマシンに触れることはもちろんだが、誰かが奏作しているときに映像の近くに漂っていただきたい。きっと新たな体感を得るだろう。

2005年 4月 2日 記

 
     
     
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